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■TOCは砂時計

                                                                       2002.0612


               ソフトパワー研究所  所長  清水 信博

■TOCは砂時計


Mpj040926000001 TOCは奥行きが広く、しかも専門書を読むと難解であるかのような錯覚にとらわれますが、その背骨を理解すれば、専門的に書いてあるものは肉付けをしたものだということが分かります。

 ようは、「砂時計」をイメージしてもらえばいいわけで、砂時計は真ん中のところがキュッとくびれていて、上にどんなに多くの砂があろうとも、そのクビレ(ボトルネック)の量しか通りません。

 そのクビレを、TOCでは、「制約」とか「制約資源」といっているわけで、これを頭の中でイメージしさえすれば、TOCの理論はほぼ解けたといってもよいのです。

 読者の方には、この「砂時計」のイメージを頭の中に置いていただいて、これからいくつかの例でお話しをしたいと思います。

■通過できる砂の量は限られている。

Mmj030981000001  まず、砂時計のクビレの大きさで砂が落ちる量は規定されるのであるから、どんなに上の砂の量が多くとも、流れ落ちる砂の量は変わらない。これはいいですよね。

 実務でいうと、前工程がどんなに頑張ろうと、生産性を高めようと、素晴らしい設備投資をしようとも、結局は砂時計のクビレの前後であれば、それは企業のアウトプットには何ら影響しないものである。これもよろしいでしょうか。

 それならば、砂時計のクビレの部分を広げて通過量を多くすればいいではないかという疑問が出てくると思いますが、それは半分は正解です。

 ただし、正解ではあるのですが、もしクビレを太くしたとしても、企業内のバランスという点でみると、必ず再びこのクビレはどこかで発生します。

 企業全体が水道のホースのように全て同等の能力でスムーズに仕事が流れていくということはまずありません。これは皆さんがよくご存じの通りです。

 たとえば全工程の生産能力を同等にしたとしても、再び必ずどこかに滞留が発生します。ベテランが休んだとか、機械の調子が悪かったといった突発的なリスクの発生が常に同等の能力を維持することを阻んでいるのです。

 しかも一旦発生した変動は次工程に伝わっていきます。前工程が終了しない限り、次工程は着手できないという[従属性]が、この崩れたのバランスの影響を次から次へと伝えていくのです。

 もし、全ての工程をロボット化したらどうなるか? それでも全工程が同じ能力を維持し続ける事は難しいのです。停電もあれば、機械の故障、陳腐化、操作者の交代等々の変動要因はいくらでもあります。

■バランスはとれないものだと認める

J0300840  企業経営者の方がよく「企業のバランスをとる」と言われますが、TOC理論を学ぶと、企業内のバランスは、そもそもとれないということを認めざるを得ません。

 たしかに理想的には企業のすべてが同等の能力をもち、受注から納品まですべて100%の能力を発揮すれば良いように思われます。そしてそのために設備投資をしたり、人員補強や配置転換をしたくなるのが通常ではないかと思います。

 しかし現実は、どのようにバランスをとろうとしても、決してバランスがとれないのが本当のところではないでしょうか。ともすれば遅れをとりもどそうと一部の部門が懸命に残業をしていることでバランスがとれているように錯覚をしているという事はないでしょうか。また、逆に余裕があり余って、いつも楽々と仕事をこなしている部門もあることと思います。

 もし貴方が「我が社は理想的なバランスがとれている」というならばならば、これからお話しするTOCの話は全く必要がありません。しかしバランスをとりたいのだけれども、どれだけやってもバランスがとれないのだと悩んでいるのであれば、これからお話するTOCの話はきっと貴方の強い味方になってくれるはずです。

 その第一歩は、「企業のバランスとは、そもそもとれないものなのだ」と認めるところから始まるのです。つまり「砂時計」のクビレ、ボトルネックは必ずあるというところから出発いたします。

■お金をかける前に、頭をフル活用する

002kiduki  さて、先ほど砂時計のクビレを太くすればいいではないかという意見が正解であると申し上げましたが、例えばそれが資金がかかるものであった場合にはどうなるでしょうか?。それだけの資金をかけられない場合もあるのではないでしょうか。

 私が言いたいのは、問題解決をする際に、安直にお金をかければいいという発想ではちょっと困る。もう少し頭を使って、いまあるものをフル活用して問題解決をはかるという姿勢があれば、もっと儲かるんだがということです。

 ですから、ここでは砂時計のクビレは、このままあると認めて、どのようしたら砂の流量をスムースに、留まることなく、24時間流すようにできるかを考えてみましょう。つまり、現状における[利益最大化]はどのようにすべきかということです。人間の身体でいうと血管の中のゴミを取り去って、サラサラな血液が流れる状況を作ることを考えようということです。

■大きなものは小さく砕く

 さて、皆さんの頭の中には「砂時計」のイメージはまだありますか。

J0199549  まず第一に、砂時計のクビレに常に砂が流れるためには、大きな砂の塊が流れたら困るわけです。蓋をしてしまっては砂が流れなくなります。この大きな砂の塊というのが、「ロットの大きな仕事」という意味になります。

 ロットの大きな仕事は、ひとつは受注物件の大きいもので、TOCでは、これは[分納作戦]をとるようにといっています。ロットの大きなものが工程に入ってくると、それ以外のものを占めだしてしまうので、利益のあるものが脇に寄せられて納期どおりに納められなくなったりします。製品ミックスの最適化が崩されたり、制約資源もそれだけに占有されます。

 そしてロットの大きいものが利益も大きいかというと決してそうではない場合があります。単価を下げて大量受注をするという例で、案外儲けは少ないという場合です。

 一方、大きなロットは社内でも発生します。前工程が頑張って大量に作った場合には、砂時計のクビレには大量の仕掛品が溜まってしまい、これがやはり制約資源を占有化してしまうのです。また仕事の流し方でもやはり発生します。作業が終了した仕掛品を手元に置いておいて、一日が経過してから次工程に流す習慣があれば、やはりこれもロットの大きなものを流すことと同等の不具合を生じることになってしまいます。

 作業が終了した時点から次の作業に取りかかるまでの仕掛品の待時間は、なんら意味をもたないものでしかありませんので、TOCでは基本は、[一個渡し]で次の工程に移動するのがベストだと言っています。それが無理であれば、宅急便のように午前便、午後便というように、できるだけすみやかに次工程に移動させることがリードタイムを短縮するキーワードになります。

 このようにして、砂時計のボトルネックの流量をスムースにするために全員がどこに力を注いだらいいのかを明らかにすることが重要であり、かつそのように全員の目と行動を[制約]の一点に注ぐことを全員経営といいます。


■バッファはどうしたらいいのか

 砂時計の上の砂が全て無くなれば、貴方は砂時計をひっくり返すことでしょう。
いつまでも上がカラの砂時計を見つめていることはできません。このように、クビレの上に砂がなければ砂時計本来の役割は果たせないことになります。

 つまり、クビレ[制約資源]の前には、ある程度の在庫バッファ(余裕とか、枯渇させないための在庫でもいい)が必要です。在庫はどこに持てば正解であるのかは砂時計の例でも明らかです。

 一方、砂時計の下が満杯になってしまえばクビレから下に砂は落ちてはいきません。これを防ぐためには、砂時計の下にはある程度の空間、スペース、余裕が必要になり、TOCではこれをスペースバッファといいます。

 バッファはどのように決定したらいいのか? これは最初は大目で、やがて経験的に小さくして、これでも大丈夫というところで決定すればいいでしょう。

■なぜ納期が遅れるのか、リードタイム短縮ができないのか?

 これも砂時計で例えてみましょう。

001gimon  いま砂時計には白い砂が入って、サラサラとクビレのところを流れています。
 この白い砂の上に青い砂を入れたとしましょう。この青い砂は急ぎの物件です。
さて、この青い砂はいつクビレを通過するのでしょうか。

 答えは白い砂の量にあります。白い砂の量が多ければ、それだけ青い砂が出てくるまでの時間がかかります。これは実務においては、[先入れ、先出し]で動いているために、いま手がけている物件が終了しないかぎり、次の物件は着手しないからです。ここでは[能率主義]が急ぎ物件の動きを阻止します。

 もし急ぎであることを明記、通達したとしましょう。そうすれば急ぎ物件は、前にあるものを追い越して納期どおりに出ていくことでしょう。しかしながら、急ぎ物件が多発したらどうなるでしょう。

 赤札が貼られ、全員にそのことを通達したらとしましょうか。その結果はどうなるでしょうか。

 結果は全ての物件に赤札が貼られることになります。以前と同じ停滞が起こってきますので、これでは問題解決にはなりません。これを砂時計で説明しますと。

 白い砂の上に、青い砂を乗せ、さらにその上に赤い砂を乗せて、なんとか赤い砂を砂時計のクビレに通そうとする行為に似ているからです。

 つまり、制約資源の前には、それを止めないために在庫は必要ではあるけれども、必要以上の在庫を保有すれば、それはリードタイムの短縮にはつながらないということがわかります。そして混ざり合った白、青、赤の砂の意味するところは、混乱です。

■情報システムの核はどこにあるか

003hohoemi  ここまでくると全てが明らかになってきます。よく生産現場では工程管理を行いますが、何十もの工程のどこに何があって、通過するのに何時間かかるか、負荷状況はどの程度かとコンピュータでシミュレーションをしていますが、TOC理論の背骨さえ理解できれば、もっとシンプルな情報管理システムができあがります。

 それは、[制約資源]の管理にあるということが分かります。砂時計を想い出してみてください。ポイントはクビレでした。上下の砂の量は問題にはなりませんでしたね。より正確にいえば、最初の投入口は砂時計のクビレを通過する量だけ砂を入れていけば良いのです。ですからクビレのところがどんな動きをしているか、その情報が必要です。

 それからアウトプットの情報管理も必要です。これは砂時計の下の部分にどれだけの量が溜まったのかということです。ということは三つのポイントだけを管理することで、工程管理は完成するということになってしまいます。これまで大型コンピュータで数十もの工程管理をしていた方にとっては、じつにあっけない、頼りないような情報管理かもしれませんが、制約の動きをキチンと理解すれば「三点の重点管理」だけで良いということが分かるはずです。

 これが「重点管理」です。

■思考方法にもTOCが活かせる

J0299125  これまで、どちらかというと製造業の方向けの話をしてきましたが、TOCは製造業に限らず、あらゆる業種でその実力を発揮することが可能であるということをお話したいと思います。

 砂時計の話を想い出してみてください。私たちはよく企業でテーマを与えられて問題解決をしようと試みています。その問題の大きさが大きければ大きいほど時間も、費用も、人員もかかります。

 これをTOC流に、問題を「小分け」にしたらどうなるでしょう。つまり大きな砂の塊であれば問題解決の時間がかかり過ぎて、チャンスを失うかもしれませんし、解決できないという不安感から「考えることをやめる」という具合に自分自身に制約を設けてしまうこともあり得ないとはいえません。それをスムースな問題解決へ方向転換をしていきたいというわけです。

 であれば、大きな問題を小分けにして、やがて全ての問題は解決していくのだけれども、最初のとっかかりは優先順位と解決のスピードを考えて、これにしよう、次はこれという具合に、相手に問題という仕掛品の山を与えずに、相手の能力に合わせて投入したらどうなるでしょうか。

 よく、「成功とは、小さな成功の積み重ねである」といいます。いきなり大成功を収めるのではなく、小さな成功で、できたという達成感、満足感(制約資源のフル活用)が加速度をつけて、次なる成功へと結びつけていくということだと思います。

 このためには、問題構造を全員で明らかにしていき、何が制約となっているのかを探るための、[問題の分解]という作業が必要となってきます。

 問題とは山で火を焚いた時と似ていて、地中を通って、全く別の場所で火の手をあげるようなことをします。元の火は一緒なのに、全く別の火であるかのように振る舞ったりするわけです。私たちはこれに惑わされてはいけません。次々とあがる火の手を場当たり的に消火していたのでは、いつまで経っても火は消せません。問題の核心を突いて消火活動にあたることが重要です。

 このために、問題の因果関係を図式化して、どこに火の元があるのかを明らかにして、そこだけを重点的に解決するように、全員の力を絞り込んで注ぐというのが問題解決の正しい姿であると思います。

■評価システムはどうする

Person_0317  この問題も砂時計で明らかになったように、全社のアウトプットを高めるものを高く評価するのが正しいということが分かります。そうなると必然的に、「それは制約の能力を高めるもの」ということになり、従来から言われてきた能力主義や評価システムとは大いに異なることになります。

 さて、これまで「制約ならびに制約資源」という名称を使用してきましたが、これはよくイメージされているような、やっかいなもの、能力が劣ったものという意味ではありません。そうしたものが厳然として存在するというだけのことであって、それ自体非難されるものでもなければ、迷惑なものでもないということをお話しておかなければなりません。

 例えば、ある品質を維持するために、どうしても必要な時間があるんだという場合。その部門は制約になるかもしれません。しかし、その時間を意図的に設けることで世の中に貢献できる製品を提供しているという場合には、それは理念的な積極的な意味での制約となるわけです。

 これを削ろうとすれば、昨今のような不良品の生産や、手抜き、有害な物質の混入等々の事件が起こる可能性も考えられます。ですから制約は決して、やっかいなものではないということを知っていただきたいと思う理由はここにもあるわけです。

 しかしその制約に従事する者にとっては、他人から「制約」だと言われるのは辛いことでしょう。できれば今すぐにでも、その場から逃げ出していきたいという欲求が起こっても不思議はありません。

 しかしながら制約の存在抜きに、その仕事は考えられず、誰かが携わらなければならないわけです。

 この問題をどのようにして解決したら良いのでしょう。これも砂時計をよく見るとすぐに理解できます。

 砂時計のクビレは懸命に砂を落とし続けます。決して休むこともなく。
 つまり最も優秀な者が、できるだけのトラブルを回避し、高いスキルで順調に仕事を流さなければ、全社の成績は達成できないということです。全社の成績は、唯一、この制約資源の良否にかかっているといっても過言ではないのです。

 ということは、制約に従事する者は、もっとも優秀な人間があたるべきでしょうし、その報酬もより高いものであることが要件となるでしょう。

 そして制約に有意の人が集まって、企業のアウトプットを最大化する運動が始まれば、仕事という砂時計は正確な時を刻み始めるわけです。
                                               ■


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