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■リードタイムについて

                    2004年9月20日
                   ソフトパワー研究所
                   所長  清水 信博
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 通常、リードタイム(Lead-Time・以下LTと称する)といえば、
原材料の投入から出荷もしくは顧客の手に渡るまでの時間のことを
意味する。

 たとえば原材料投入から製品出荷まで7日であるとか、100時
間といった具合に表現することが多い。

 そして、このLTが短ければ短いほど、顧客にとっては、ありがた
いことになる。しかも納期が正確であれば、なにもわざわざ大量の在
庫を持たずにすむので、顧客にとっては資金繰りから、在庫金利負
担、ムダな在庫スペース、整理整頓のための人件費等も削減すること
ができる。

 ところが在庫スペースが小さくなると困った問題が起こってくる。
 それは顧客への納入回数が増えて経費がアップするからだ。それま
で月1回の納入ですんでいたものを数回に分けて分納せよということ
になるので、製造経費から配送費まで含めて経費アップになってしま
う。

 このあたりが経理を中心として企業全体で「分納」に反対する理由
になる。

■現在のLT短縮は

 では現在の製造業のLT短縮はどのように行っているのだろうか。

 まず売上不足と値引きに困っている製造業は、LT短縮を個々の物
件そのものだけで考えているようだ。つまり1万個のオーダーがあれ
ば、それをいかに短時間で納品するかに頭を絞っている。

 そのために高価なハイスピードのマシンを購入するとか、熟練の技
術者を養成する、残業、パート・アルバイトの採用といったことで、な
んとか切り抜けようとしている。ところが、その1万個のオーダーは
全て必要なのかというと、顧客の側では数ヶ月に渡って使用されるも
のであったりする。

しかし購入価格を下げようという意図がある仕入担当者はオーダー
1万個だから1個あたりの仕入価格は、これでと指示してくることが
多い。これを、そのまま鵜呑みにしてかかると、工場の生産能力
(キャパシティ)を大きく超える大蛇のような物件が工場内を練り歩
き、いたるところで仕掛品の山を築き、やがては利益を食っていく。

 そして、より儲かるはずのオーダーは隅においやられて、出番が遅
くなり、結果的に顧客に不満をもたらし、これも利益を食っていく。

 一方では高価なマシンや高給な人材といった固定費増加を行い、一
方では値引きや顧客不満足度を招き入れて、これではWパンチで製造
業は儲かるはずはない。

 最悪の場合には、原材料購入資金が足りないために、儲けゼロの仕
事でも請け負うということもありえる。良かれと思った意思決定が、
ことごとく裏目に出てしまっているというのが、いまの製造業全般に
いえることではないか。

■ 1対3000

 先日、ある講習会で聞いた話だが、某優良自動車メーカーでも製品
を実際に加工している時間と、待ち時間との比は1対3000だと言
っていた。

 これを聞いてなるほどと思った。その理由は、TOC(制約理論)
導入でLTが半分になったという企業がよく驚かれるが、それにして
も1対3000が1対1500になるということだからである。

 しかもその某優良自動車メーカーですら1対3000ということは、
一般の製造業でいえば、1対1万とか1対2万という数字になるのだ
ろう。ここにLTに対する「大きな落とし穴」がある。

 もうすでに製造業は十分な能力のあるマシンは購入しているのであ
る。1対3000という数字がそれを見事に表している。つまり実稼
働時間は、以前と比べて圧倒的に短い時間になってきていることが分
かる。

 アッという間に加工できる。そして、その加工と加工の間の待ち時
間のほうが大きくなっているということに気づく。

 では、さらに高速のマシンを購入したとして、結果はどうなるのだ
ろうか。結論からいえば、全社を貫くLTには何の変化をもたらさな
いということが分かる。

 LTを短くするには、実稼働時間を短縮するのではなく、1対30
00の3000の側を短縮するほうが、よほど効くということだ。
 そして人件費は生産数量ではなく、時間に比例して支払われるもの
であるから、製造原価の大半を占める人件費を下げたいのであれば、
やはり非稼働時間のほうを叩くべきだということも明らかになる。

■大きな山は小さく崩す

 どんなに遠い道のりでも、一歩ずつ歩めばやがては到達する。山ほ
どの料理を食べる場合にも一度に胃袋に詰め込んでもダメで、ひと口
ずつ食べるほかはない。これが大きな仕事をする場合の原則である。

 大きなロットの仕事は、細かく砕いて、大蛇ではなく小さな蛇にし
てしまえば工場内を荒らすことなく、通常の仕事の邪魔をすることも
ない。さて、先の非稼働時間1対3000の話から分かるように、大
きなロットを小さくした場合に分割数かける1回の経費が増加したと
して計算をした場合と、一方、1対3000を1:1500というよ
うに非稼動時間を短縮した場合のコスト比較をやってみると面白い。

 日本の人件費が中国に比べていかに高いかはよく言われているが、
この差は明らかに後者のほうが有利になる。

 なぜなら、トヨタ自動車のカンバン方式、一個生産、多品種小ロッ
トが有利であることは今期の決算数字でも明らかだからである。

 一方、相変わらず大きなロットで、見込み生産方式、おかしな原価
計算を金科玉条のごとく掲げている某企業は倒産寸前である。

 じつは、多くの製造業はLT短縮について、ほとんどが「まったく
逆のこと」をやっていることに、早く気づいてほしいものである。
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