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■新製品開発日記

                                                                        2002.0318


■新製品開発日記

 これも記録に残しておきたい事柄なので過去の記憶を遡って書いて
みます。全社PQを数年で倍にするような新製品開発をした時の話です。

               ◆

 僕がH社に入社してピンシステムの開発・日本印刷技術協会賞の
銅賞受賞後、やはり次に取り組むのは[新製品開発]でした。

 ちょうどその時代には師匠の息子さんであるY氏がH社に指導に来
ていて、Y氏は月のうち半分くらいを私の実家で一緒に暮らしていた
ので、まるで兄弟のように付き合っていました。

 そのY氏はデザイン、広報にかけては抜群のセンス、指導力をもっ
ていましたが、こと印刷理論・技術となると素人に近く、逆に僕のほ
うはデザイン・宣伝にかけては素人。

 この二人が協力すれば何かできるだろうということで、印刷に関し
ては僕がY氏に教え、顧客ニーズ、デザインに関してはY氏が教える
相互指導を何回か続けたことを覚えています。

 その中で、僕が大日本スクリーンテクニカル研究所時代に研究した
小雑誌にコダック社の研究事例が掲載されていて、それはデュオトー
ンという二色刷の白黒印刷に関するデータと印刷物でした。

 白黒印刷、モノクロ印刷のほうが一般的かもしれませんが、それは
二色のトーン(階調)を刷り重ねあわせる事でボリューム感とコント
ラストを出すというものです。

 印刷物の濃度(オフセット印刷)は、写真やネガと比べると、相当
低くて、ネガの黒い部分の濃度を測定すると3.5くらいあるのが、印
刷物となると1.8くらいになってしまう。このためにモノクロ印刷を
1色で刷ると暗部が締まらず、ボケたような印刷物になってしまい、
ちょうどコピーをとった時のような平坦な、ノペッとしたような印刷
物にしかなりません。

 これを改良したのがデュオトーン、もしくはダブルトーンで、ハイ
ライト側を受け持つ版と、シャドー側を受け持つ二つの版を重ね合わ
せて印刷することで、シャドー部の濃度を増し、豊富なトーンも得よ
ういうわけです。

 しかし人間の眼はよく観察していただくと分かりますが、明るい部
分の変化については大変敏感なのだが、暗い部分の同じ濃度変化につ
いてはかなり鈍感であるという特性をもっています。上下灰色の服装
であっても、ちょっとした違いにはすぐ気づくのが、黒っぽい上下だ
と、そうそう気づかないこととよく似ています。

 ということは、このデュオトーンであっても、大事にするのは、紙
の白さであるキャッチライトから中間濃度までの印刷再現を重要視し
ます。そして中間濃度部分からベタ(最暗部)までの多少の再現上の
犠牲はやむを得ないと考えるわけです。その理由はオフセット印刷は
1~100%までの網点で構成されていますから、その100をいか
に分割するかが問題であって、その中には101は無いし、マイナス
5という網点もないからです。

 そして、このコダック社のデュオトーンはじつに鮮やかな白黒でし
た。しかもボリューム感もある。

■アルバム業界の常識は違った。

 ところがH社に入社したところ、そこでもモノクロ印刷はやってい
たが、色が独特な茶色であることに驚きました。

 つまり色あせした写真をイメージしての印刷なのだろうけど、卒業
アルバムは何十年も経ってから頁を開くのだから(過去=古さ)とい
う方が価値があるように思えるじゃないかという考えで始まったのだ
と思います。

 また、それはオフセット印刷の前のコロタイプ印刷という職人芸の
ような時代からもたらされたアルバム業界の常識でもあったのでしょ
う。

 しかし、よく考えてみて下さい。写真が退色するというのはよくあ
りますが、なぜ印刷物を最初から茶色にしなければならないのか?。

 そしてそれが付加価値なんだろうか?。触れば手が真っ青になるよ
うなビロード生地の表紙や、なんの意味もないバックルが表紙に貼り
つけられていたり・・・こういったものが付加価値なんでしょうか。

 僕は違うと思う。そうY氏に伝えました。

 彼も全く同様で、印刷表現に関して新しいものを模索していたので、
それでは私が試作をつくってみましょう。ということで現場の人達に
協力をしてもらって茶色ではない、本当のモノクロ印刷の試作品を作
りました。

 古くからの人はさすがにあまりいい顔はしませんでしたが、夏場の
閑散期の研究ということで、了承してもらった記憶があります。

 ここで常識というものについて考えてみたいのですが、印刷業界と
いうと商業印刷も缶詰の印刷(タコ印刷?)もあれば、ビニールに印
刷するものから、最近ではホームページ作成と、じつに様々なものが
集まって業界ができています。当時もじつに様々な印刷分野があった
ものです。

 その中の、ほんの小さな分野が「卒業アルバム業界」であって、そ
こで、これが自分たちの標準だといっても全体からみればなんのこと
はない。他人から見れば、ほんのちょっとした違いでしかない。

 新潟で吠えても、都会に行って、世界に行ってみれば、なんのこと
はない、ただ世界観が狭いということが分かるだけことでしかありま
せん。

■新製品

 さて、Y氏と何回か試作品を検討して、これは確実にヒットすると
いう確信を得たのはいいのですが、これを新製品として世の中に出し
ていこうとなった時に問題が噴出しました。

 つまり、これまでの茶色が頭からこびりついて離れない人にとって
は、白黒のメリハリが効いた印刷は許せないからです。経営会議でも
問題となり、結局これが元で後にY氏はH社を去ることになりました。

 当時、大手企業に対抗するには弱小のメーカーは相手にない新製品
を次々とぶつけて顧客を獲得するしかありませんでした。しかしそれ
が拒否されたとなると、内部説得ではダメなので、顧客に新製品を見
せて賛同を得て受注するしか手はありません。そこでY氏に新製品を
もって東京へ飛んでもらい、新規開拓先に見てもらうことにしたわけ
です。

 結果は明白で、顧客からはこういった新製品を待っていたんだとい
うことで受注にも成功。おかげで反対していた人も指定された新製品
を印刷しなければならなくなりました。

 そしてこの話題が次々と新規受注を呼び込み、H社はその後驚異的
なPQ増を実現したいきました。二年目には新製品はまだ30%くら
いであったのが十年も経つと80%ほどになり、それまでの茶色の印
刷物を抜くまでになりました。

 しかしその成果は、いつしか反対していた経営陣の手柄になってし
まい。その結果、Y氏はH社を去ることになり、私もしばらくして現
場からは離れ別の分野に進みました。

■新製品Ⅱ

 掴むと手が真っ青になるビロードの表紙。これもおかしい。

 そこで業界では初めて、商業印刷では当たり前の「印刷表紙」の開
発が次の新製品開発のターゲットとなりました。これも大ヒット。

 とにかく大手に対抗するには、モノクロ印刷程度だけではかなわな
い。新製品開発で新規顧客を獲得すれば大手は真似てくるので、真似
をした頃にはこちらが新製品を出しすくらいのスピードでないと勝て
ません。

 そこで第一の新製品ヒットで時間稼ぎをしている間に、次の印刷表
紙の開発と試作品づくりに入りました。

 この時代(1982年頃)に斑尾高原での若手写真館のセミナーで講演し
たことがあって、その際に、「いまカラー印刷が増えているし、これ
からもカラー印刷は増えるであろう。しかし印刷にはモノクロとカラ
ーしかないので、カラーが80%を越えたらモノクロが目立つように
なる」と話しました。参加者はポカンとしていましたが、世の中とは
そういうもので、印刷物でも何でも目立つのは少数派です。

 この講演から帰ってきて、しまった!と思ったのは、必殺仕置き人
をTVで見た時でで、印刷物はカラーとモノクロしかないのではなく
て、忘れていたものがありました。それが[特殊効果]。

 幸いなことに、特殊効果については大日本スクリーン研究所時代に
これも雑誌で見て、研究してきている。マン線スクリーン、砂目、ソ
ラリゼーション等々もやってきた経験がありました。

 そこで、卒業アルバムの中に「特殊効果」を入れたらどうだろう?
運動会などの躍動する場面には線画のようなものもいいかもしれない
し、冬の登校風景には何がいいだろう?。

 何も全ての印刷物が写真に忠実に再現するのではなく、もっと意図
的にインパクトのある想い出づくりがあってもいいのかもしれない。

 そう考えて、暗室の中に入ったり、出たりしながら、数種類の試作
品をつくりました。これも顧客にインパクトを与える製品へと繋がっ
ていきました。

■感想

 僕が新製品開発をやって感じたことは、何も目新しい事をやったの
ではないということ。ほんの隣りの業界を覗いてみたらそこでは当た
り前の事としてやっていることが、こちら側だと全く斬新なものとし
てうつる。ただそれだけのことでした。

 だから自分のいる所だけを正当化しないで、違ったところを見れば
いいんだけど、それがなかなかできない。みんな認めたがらない。

 逆にいうと競合他社もそういう固定概念があるから、僕たちが最初
にやれたっていうこともあると思います。

               ◆

 最初の試作品でモノクロの白黒がハッキリした、茶色ではないイン
クで印刷することでしたが、今度はそのモノクロがほとんどになって
しまったわけです。そうなると僕は今度はそれを壊す時期にきている
のかもしれない。と、そう思うんですよね。

 先ほどいったようにカラーが80%になったら、今度目立つのはモ
ノクロですよっていう考え方でいうと、僕の作ったものも壊して、新
しい価値を提供するのがメーカーの役割だと思います。

 その反面、写真家の土門健の写真集をみたらわかるけど、あれだけ
見事に白と黒のコントラスト、再現性、シャープさ等をみると鳥肌が
たつほどです。写真も凄いけれど、印刷も凄い。

 僕はH社入社前に土門健の写真集を見てましたから、卒業アルバム
の中にもこんな印刷があったら凄いという意識があったのだろうと今
になってみると想います。

 こうしてみると、様々に思いつくことがありますが、メーカーであ
るならば、やはり製品そのもので付加価値をつけてほしいということ
を願っています。

 たしかにビデオアルバムもあったし、CDアルバムもあるでしょう
し、セミナー等で教育することもあるでしょう。様々なものをお客さ
まに提供することは悪いことではありません。しかしそれらを全て考
慮した上で、やはり僕は製品そのものの価値を高めることがメーカー
の役割ではないかと思います。

 最終的に卒業アルバムを手にする子供達が何を想い、どう回想する
のか、いいと思うのか、なんだこんなものと思うにか。そこで本当の
メーカーの実力が試されるのだと思います。

 最後に、こうした新製品開発についてはY氏のデザイン力と僕の知
らなかった顧客情報の提供とが、うまくミックスして、ディスカッシ
ョンを繰り広げたことで可能だったことをお伝えしたいと同時に、当
時、新製品開発に対して心よく協力してくれた現場の仲間に対しても
深く感謝をする次第です。ありがとうございました。


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