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■流行らない店・流行る店

                                                                           2002.0915
               ソフトパワー研究所  所長  清水 信博

■床屋の値づけ


 私の住んでいる団地にも三十年ほど前からの古い床屋がある。
 腕はいいのだが値段が数千円と高い。このため客の入りはよく
ない。

 一方、駅前にできたチェーン店は千円でそこそこの仕上がりな
ので平日でも満員である。このチェーン店は、コンピュータ管理
が徹底しているとのことで、まず客は千円でカードを買い、それ
を店員に渡すと、十五分程度でカットをしてくれる。

 まさに多忙なビジネスマンにはうってつけの商売だといえる。
 また店員が現金の授受をしないことで素早く仕事に取りかかれ
るし、金銭トラブルも少ない。こうなると昔からやっている床屋
は、いったいどうしたらニューウェーブに勝てるのだろうか。

■原価計算の間違い

 こうした床屋に聞くと、料金はどのように決めているのかとい
えば、材料費は微々たるもので、ほとんどが技術料だという。し
かも技術料の中でも人件費の占める割合が多いのだそうだ。

 そこで一人の客に三十分かけたとしよう。
 そうすると人件費は三十分であるから、給料の年間平均額を実
稼働日で割って、時間単価を出して、それに多少の上乗せをして、
業界平均と比較してと計算をはじく。そこに経費を乗せて技術料
を計算すれば、すぐにでも価格は数千円になってしまう。

 こうなると、くだんのチェーン店の千円とはかけはなれた価格
になるのだが、それでも店主は仕方がないと思うしかない。自分
たちには千円というプライスは絶対に設定できない。もしくはあ
んなに低価格ではきっと潰れるに決まっていると憤慨したりする。

 しかし果たしてそうなのだろうか? 潰れるはずの相手がドン
ドン客を増やして、原価計算をキチンとやった自分たちの店に閑
古鳥が鳴いている。早晩店じまいをするのは自分たちのほうであ
るかもしれないのに。

この考え方の致命的なミスは、いかに単価が低かろうが、原材料
費を割らないかぎりは真の赤字にはならないということを知らな
いことだ。

 どうしても原材料費プラス人件費、技術料、経費などを上乗せ
したくなるのが間違いである。人件費、技術料などは月間のグロ
スで考えることであって、時間単位に割り振ることは間違いなの
に、どうしてもそれを認めたくないのだろう。

 二つめは時間単位の人件費とはいうが、客が来ない時の時間単
位の人件費はいったいどうなっているのかということだ。もしく
は客が来ないときに垂れ流しになっている時間あたり技術料はど
うなっているのか。ここは全くといっていいほど見てはいない。

 ただ客が来ないと嘆いているだけである。

 しかも、客が来なければ、月間の粗利額は減り、それをまかな
うためにさらに客単価をつり上げてしまう。これでは客のほうは、
ますます安い店に流れていってしまうのは当然のことである。

 私の団地の床屋も早くこの現実に気づいてプライシングの考え方
を改めれば、もっと客数が増えて儲かるのにと思うのだが。

■口コミで広がっている建設会社がある

 N建設は地方の中堅どころである。大手がは共事業の受注を押
さえているために、下請けも多いのだが、なぜかこのN建設は口
コミで一般住宅建設、改装等の受注が多い。

 ちなみに私の事務所、自宅も昨年N建設にお願いしたのだが十
分に満足している。

 自宅の改装工事は誰でも興味はあるし、心配でもあるので何回
となく視察にいったのだが、床をはがすと二十年前のずさんな工
事がよく分かった。床材は貧弱でたわむし、横木も細く、釘にい
たってはパラパラとしか打ってはいなかった。しかも床下には工
事の廃材が投げ捨ててある。これを見てN建設のYさんは、無料
で廃材の撤去、運搬をしてくれた。

 また、横木も床材も頑丈なもので、釘もこれでもかと打ってく
れたので、まるで体育館のように頑丈な床に変身した。この様子
を子供達も見ていたが、本当に親切に工事の内容やこれからどう
なるかなども教えてくれた。

 年末になるとYさんと若手が脚立を持って自宅を訪れた。聞く
と顧客サービスで雨どいの掃除をしているのだとか。もちろん無
料だという。すっかりきれいにして帰っていった。

 また新年会をやるので、ぜひ参加してほしいというので、興味
もあったので参加してみたら、これも驚いた。昨年一年間で何ら
かの仕事をさせていただいた方、百名ほどを招いて一席設けてあ
った。社長の簡単な挨拶のあと宴席が始まったのだが、回りをみ
ると高齢者が多い。

 皆さんN建設のフアンのようで、私も隣りの方からさかんにN
建設の自慢話を聞いたが、今年は裏庭の壁の改装をするのだと言
っていた。また前に座ったご婦人は、子供部屋の改装をしたいと
もいっていた、。

 こうした話を酒を注ぎにきたN建設の営業マンにさかんにお年
寄りはするのであるが、営業マンは、いっこうに話にのってこな
い。 たぶん、こういう宴席では仕事の話をするなと経営者から
お達しがでているのだろう。

 しかし面白いもので、そうなるとますます「次はここの改装を
頼みたい」という話が出てくるものだ。こうして新年会が終わる
と、一階の出口には社長夫人が皆さんに花一輪を渡して見送って
いた。折しも雨が降っていたので急遽全員がタクシーチケットを
渡されて帰ることになった。

 N建設は、大手とまともに戦っても勝ち目はない。莫大な宣伝
費をかけても知名度は低いので、その分の経費はお客様に還元す
るのだといっていた。こうしてこれから高齢化社会に向かってい
るが、N建設は高齢者の口コミで派手ではないが着実に顧客を広
げている。

 この話を大手建設会社の経営者にしたところ、「我が社では決
して真似できない」と驚き、しかも「いまは口コミが一番大事」
だといっていた。

 また私の母親にも話をしたところ、ちょうど裏庭が気になって
いたので、改装をお願いしようかということになり、調査と見積
もりを依頼した。その結果、壁は大丈夫だが、数年前に駆除した
はずの白アリが出ていた。四十年以上も付き合いのある大手建設
会社の工事の不手際であった。数社から見積もりをとったが、価
格的にも折り合いのついたN建設に最終的に駆除をお願いするこ
とになった。

 工事後も定期的に訪問してフォローは怠らず、母はずいぶん喜
んでいるが、何十年もの付き合いの大手建設会社との縁はそこで
切れることになった。


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