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■製造原価の不思議

                                                                    2002.0815
                ソフトパワー研究所  所長  清水 信博


               
■TOC革命

 いま書店を賑わしているものが「TOC」。

制約条件の理論に関する書籍だ。2001年5月「TheGoal」
日本上陸以来、製造業をはじめとして様々な業種で注目されている。
すでにこのTOCを導入して在庫は半減、利益は2倍、リードタイム
も半分になったという企業からのレポートが相次いでいる。     

詳しく知りたい方は、tocーjapanサイトをご覧いただきたい。

 さて、今年の一月。私はそのTOCゲームを体験する機会を得た。一
卓7名が、それぞれサイコロを振り、出た目の数だけポーカーチップを
動かす(製造する)という、じつにシンプルなゲームであった。

20回(これは20日間=一ヶ月という意味)サイコロを振って、それ
が終了すると簡単な損益計算書を作成するのだが、このゲームは私の目
からウロコを落としてくれた。

 なぜならば、全員が懸命にサイコロを振って製造数量を大幅に上げる
と仕掛・製品在庫が膨れあがり大赤字になるのだ。一方、TOC流を採
用してゲームをやった時には在庫は増えない。リードタイムも半減。
 しかも黒字に転換する。信じられないかもしれないが、よくよく理論
体系を勉強すると、まさにいまの製造業がいかに間違っているのかがよ
く分かる。儲からない仕組みになっているのだ。

■部分最適化より全体最適化

 これまでの製造業は、いかに各人が生産性を上げるか、能率を良くす
るかという「部分最適化」に目を奪われ過ぎている。さらに部分最適化
の集合は全体最適化であるとの誤解が拍車をかけている。つまり各人が
最大の努力を発揮すれば、全社の数字が良くなると思っている。しかし
それは全くの誤りなのだ。

これを見事に証明してくれたのがTOCのサイコロゲームであった。
しかもTOCでは、在庫を減らせなどという命令を出さなくても在庫は
自動的に減る。そして数倍の利益が出る。まさに良いことずくめの「T
OC」なのだが、このゲームは会計システムに力を入れなければならな
い。そこで私が独自にゲームのルール、会計システムの開発を進めてき
た。

■「戦略MQ会計STRAC」を導入

 このTOCのサイコロゲームの決算ではスループットという言葉を使
っている。スループットという耳慣れない言葉は、TOC提唱者のゴー
ルドラット博士が作った用語で、従来型会計でいうと、売上総利益、粗
利、もしくは経常利益のあたりをまとめて言っているらしいのである。

 このため専門書を読むと、粗利なのか利益なのかで戸惑う読者も多い
のではないだろうか。そこで会計システムは、素人でも決算ができて実
践的かつ専門家も納得する西順一郎氏が開発した戦略MQ会計STRACを
採用した。

すると単純なゲームが一変してしまった。

■製造原価を下げると赤字になる?

 ゲームのキットを作って何人かの人に体験してもらい決算もやってみ
たところ、参加者の中から、「このゲームで製造原価も計算できるので
はないか」という質問があった。大変面白い提案なので、早速簡易型の
製造原価計算を組み込んでみた。

すると驚くことに、各人が最大の努力をして生産数量を上げるほど、
製造原価は下がるのだが、結果は大赤字になる。一方、TOC流でやる
と製造原価が上がるにもかかわらず、黒字どころか利益は数倍になるの
である。従来の考え方では、製造業は製造原価を下げることが最大の命
題であった。にもかかわらず、それが赤字に向かうとは。

 この答えは証明できる。

 戦後の日本では、労務費等の人件費比率はいまの中国並みに低かった
ために、製造原価における人件費、経費の上乗せ分はわずかな比率にし
かならなかった。それが人件費の上昇とともに製造原価に含まれる人件
費の割合が急上昇してきたという事実がある。あなたの会社の損益計算
書をご覧いただきたい。総費用の半分以上は人件費関連だと思う。

さて原価低減の努力をする場合。原材料費の低減が見込めればよいが、
いまでは特別なことがないかぎり原材料費も最低価格に近い。こうなる
と、原価低減のターゲットは、おのずと上乗せ分の労務費、経費、減価
償却費等々の低減になる。では、それらを低くするために工場では何が
行われているのだろうか。

答えは明白である。同じものを大量に製造すること。様々な製品仕様
で機械の段取数や変更を増やさないこと。こうしていわば大きなロット
単位で生産をして、1個あたりに割り振る人件費を下げる行動をとって
いる。この結果、見た目の原価低減目標が達成される。

ここまでは誰もがやっていることである

大事なことは、それでは、そのやり方で決算書の利益は大きくなって
いますか?。在庫はどうですか?。リードタイムが短くなり、お客様に
納期を確約できますか?。キャッシュフローは良くなっていますか?。
ということだ。事実をよく見てほしい。ほとんどの企業がこの質問には
ノーと答えるのではないだろうか。結論を言おう。製造原価低減の努力
は、「利益」との相関関係はない。この事実に多くの経営者、原価担当
者はいち早く気づいてほしい。いまの日本の製造業が懸命な努力をして
いるにもかかわらずリードタイムが長くなり、在庫が増え、利益が出ず
に、キャッシュフローの悪化を招いているのは、まさにこの「思考転換」
ができていないためであるといっても過言ではない。

■柏崎の会社が変わった

 新潟県柏崎市に本社があるキムラテクニクスでは全社員でこのゲーム
を行った。

するとフライス盤を担当して数十年のベテランが同僚達から「あなた
が頑張るのはいいけれど、後工程のMCマシンの前に仕掛品の山ができ
あがって、つかえているのが問題だ」と言われた。しかも「フライス盤
だけではなく、MCマシンの操作技術も勉強して欲しい」との提案があ
り、渋々ながら本日分の必要量を製造後、すぐにMCマシンの手伝いに
行くことになった。こうしてしばらくするとスイスイとモノが流れはじ
め、利益も改善された。

そこで社長はTOCの本格導入を決意。清水の舞台から飛び降りる覚
悟で、原材料投入を絞っていくことに決めたとか。最近では出荷部門で
の残業もなくなってきたそうだ。原価計算が正しいと信じてきた社長も、
いま過去の幻想を振り払うことに懸命だ。


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