■TOYOTA生産方式
2005年2月28日
ソフトパワー研究所所長 清水信博
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■トヨタ生産方式を見学
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2005.0228初めてトヨタの工場を見学。
愛環MG終了の翌日、(株)鍋清の加藤清春社長のご好意でトヨタの
心臓部を見せていただく見学ツアー(公開)に参加することになった。
これまでトヨタに関してはJITの生みの親である大野耐一博士の
本を何冊か読んでいたが実際に見るのは初めてだった。
まず我々は10時過ぎにトヨタ記念館(今年2月に完成したばかり)に
集まって、そこから主力の堤工場までバスで20分の移動をした。
バス内ではガイドの優秀な若い女性がトヨタの概要について話をして
くれた。今季トヨタはグループの連結決算でGは約2兆円。トヨタ単体で
も1兆円とのこと。いったいどのような工場でものづくりがおこなわれてい
るのかと期待は膨らむばかりだった。
■堤工場
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車を作る工程は大きく分けると4工程になる。
プレス工程 → 溶接工程 → 塗装工程 → 組立工程
最初に向かった堤工場は、社員数6800名、二交代シフトで月産38,000台。
溶接等のロボット1000台、溶接自動化率93%という工場だった。
工場に着いてまず驚くのは、じつに整理整頓が行き届いており、床には
テープが貼ってあって、モノが少ない。優秀な工場はどこも綺麗だ。
最初のプレス工程は巻物になった延べ板が切り出されて、型に入れられ
て、ドアになったり、ボンネットの形でポンポンと加工されている。
その次の溶接工程は圧巻で、骨だけの車に、6台のロボットが襲い掛かっ
て、火花を天井まで飛ばしながら4500箇所も溶接をしていく。
6台のロボットを1単位とすると、ベルトコンベアーに乗った車がその
洗礼を6回くらい受けて溶接工程が終了するようだ。
と、そのとき音楽が流れて、突然流れが中断!
どこかの工程でミスが出たらしい。
トヨタでは「アンドン」と言っている作業場の上にある表示板の5番と6番
のランプが点滅している。ここで問題が発生したようだ。
早速、リーダーが5と6番の工程に走っていって問題解決をしていた。
トヨタの凄いところは全工程のたった1箇所でミスが出たら、工場全体
を止めてしまうことだ。
そんなことを貴方の会社の工場長はやるだろうか?
でもトヨタは平気でやってしまう。
そのトヨタが1兆円もGを出している。
一方、操業度ばかりを気にする工場長の言う通りやると赤字になって
しまうから不思議だ。世の中逆なのである。
◆
しばらくするとまたベルトコンベアーが動き出した。
このベルトコンベアーの速度がじつに気持ちがいいというか、人間の作業
リズムにあわせて、ゆっくり動いているよう見える。
ベルトコンベアー式は非人間的と主張する人は、ここトヨタを見学すると
いい。じつにゆったりとものづくりが行われているのに気づくはずだ。
こうして車が作られていくのだが、ガイドによると、トヨタのリードタイム
は20時間だと言っていた。金属の板が完成車両になるのに20時間だという
ことだが、これはものすごい速さで、同業種はじめとして、トヨタのスピード
に勝てる製造業はどこにもない。
たぶん一般の製造業であれば同業種でもそうだが、数倍のリードタイムになる
だろう。ちなみに堤工場は月産38000台だから、月20日出勤の24時間
稼動として計算すると、持ち時間=20日×24時間×60分=28800分になる。
それを38000台で割ると、約0.75分に1台の車が出荷されていることになる。
しかも、これはいくつもある工場の中のひとつ。堤工場だけの数字だ。
■元町工場へ
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堤工場の見学を終えた我々は次の 元町工場へと向かった。
ここでの見学時間は40分。クラウンなどの高級車を作っている。
社員数2700名。月間17000台製造。
トヨタは53種類の車のラインナップがあるが、部品総点数は3万点にも
なるという。
しかもここが驚きなのだが、ベルトコンベアーに乗っかっている車が、
すべて「違う車種」だということ。
つまり、トヨタは多品種少量どころか、「多品種1品」をやっていたのだ。
これは大変なことで、溶接工程のロボットは毎回異なる車種の溶接をやらな
ければならない。1台溶接した瞬間に次の車種のプログラムを読み込んで、
腕を動かさなければならない。
検査工程の担当者もクラウンの次にランドクルーザーがきて、その次には
エスティマがひかえているから、検査用工具も次から次へと変えなければ
ならない。
塗装工程では、毎回塗る色が違うし、車種も違うから、パッパッと変えて
いかなければならない。
組立工程では毎回シートが違うものを用意しておかなければならない。
こうしてトヨタ生産方式は多品種1品料理を作っている。
そしてそれらの作業をする人のために、バックヤードで必要部品を篭に入れ
て集めているワーカーがいる。彼らはそれこそジャストインタイムで、組立て
をするときにドンピシャリで間に合うように部品を集めて、提供していく。
■感想
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結論からいうと、見事というほかはない。
堤工場も元町工場もともにいかにも巨大な工場という印象はなかった。
これがトヨタの工場?というくらいコンパクトな、しかしリズミカルに
動いている工場という印象だった。
元町工場を見学しているときに、やはりトラブルが起こったのかライン
が止まった。
そのときに、いま車の下からネジを電動工具で止めようとする社員の手も
同時に止まったまま動かなかった。並の工場ならば、俺くらいといってネジ
を1本は止めるかもしれない。しかしトヨタではそれは許されない。
ピタッと止まったままの社員の手が動いたのはOKの合図が出たときだった。
これを見た瞬間に、「トヨタ生産方式が誰もできないのは、こういう企業精神
や風土までは真似できないからだ・・」と思った。
■トヨタのバッファ管理
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トヨタのバッファ管理は、スキー場のリフトの動きとじつによく似ている。
スキーをやる方はご存知だと思うが、リフトは一定間隔で動いている
ように見えて、じつは乗車する場所の後ろをよくみると、リフトの
間隔がつまっている。
これは乗降車をする際に怪我をしないように、間隔調整をしているのだ。
これがバッファに相当する。
だからトヨタでも車をリフトのようなもので掴んで移動させているが、
工程から工程に移る場所では、何台かの車が詰まって並んでいる箇所
があった。
そこから出た車はリフトのように一定間隔で動いていく。
そのバッファは組立工程の前にあった。
なるほど、アセンブリ工程(組立工程)の前にはバッファを置けという
のはこのことかと納得がいった。
■部品を集める
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1台の車に必要な部品点数は多く、しかも製造のタイミングに合わせて
タイムリーに作業者の手元に部品がそろっていなければならない。
作業者をバックアップするのが、部品調達係だ。
彼らは手押し車を使って、部品棚を回る。
その際に、どのようなシステムかは分からなかったが、とにかくランプが
ついている棚に行けと指示がでる。そのランプがついている棚まで手押し車
を押していって部品を手にしてランプのスイッチを切ると、二つ先の棚の
ランプが点滅している。今度はそこにいって部品をとるという具合にグルリ
と部品棚を一周すると、いままさに3台後に組立てを待っているクラウンの
特注モデルの部品一式がそろうのだ。
これは見事という他はない。
しかも手押し車の下にはガイドがついている。
部品棚を回るときに、他の手押し車とぶつかっては困る。
できるだけ一定のライン上を手押し車が動いてくれないと困るので、床には
鉄道のレールに似たものが敷いてある。手押し車をそのレールにもっていく
と巧妙な仕掛けで、スッとレールの上を走るようになり、狭い場所でも手押
し車が交差できる仕掛けになっていた。
こういった工夫がいたるところにあるのがトヨタ式改善だ。
誰がやっても間違わないようになっている。そういう仕組みになっている。
だから、とんでもないGが出るのだろう。
恐るべしトヨタである。(^^;
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