■TOCと心理学
■逆転の発想
製造業では、自分の仕事を「開始」するときと「終了」した時間を作業時間として記入します。次工程も同様に、前工程から来た物件の「作業開始時間」と「終了時間」を記入します。
こうして全工程の「実作業作業時間の集計」が行われるわけです。
(例)A工程で1時間加工後、3時間待ってB工程は2時間で加工の場合
(A工程)作業開始・・(1H)・・・作業終了
□□待ち時間(3H)□□
(B工程)作業開始・・・・(2H)・・・・作業終了
ところが、「その物件がなにも加工されていない待ち時間」の合計が最も大きいことはすでに分かりました。そしてその待ち時間を短縮することで生産リードタイムは苦もなく激減できることもTOCで分かりました。
では、ここで例え話をひとつ。
■A工程のワーカーは、「俺は時間通りに開始して予定通り作業を終えた」と言います。
ところが次工程Bはまだその物件を手がけていません。何故でしょう?
それは別の物件に取り組んでいるからです。
この場合、通常誰が悪いと責められるでしょうか?
たぶん、B工程が責められるでしょうね。そして評価も報酬もA工程が良くて、B工程は低い評価になることもあります。
でも、じつはこれが「部分最適化」の温床になるのです。
■では、この作業時間の計測方法をちょっと変えてみましょう
開始時間だけの差額で作業時間を算出します。
先の例ですと、
(A工程)作業開始・・(1H)・・・作業終了
□□待ち時間(3H)□□
(B工程)作業開始・・・・(2H)・・・・作業終了
となっているので、A工程の作業時間は1時間ですが、次工程Bが、「手がけるまでの時間も」加えて、A工程の作業実績は1+3=4時間とします。今度は逆に、悪いのはA工程であるというように評価は逆転します。
え! と思われるかもしれませんが、じつはこの方法が部分最適化を破壊し全体最適化へと向かわせるのです。
つまり、次工程が「早く手がけてくれなければ、その責任は前工程にある」というのですから自分だけ良しの姿勢では「上司の評価が下がります」。
よって、今までのように「俺はちゃんとやったんだ!」と威張ってはいられません。
次工程の人に「どうか、早く手がけてください」と頭を下げなければなりません。こうして先頭工程から最終工程までが「次の工程が早く、きちんと開始できるよう配慮して生産する」ようになれば会社は飛躍的に伸びます。
以上のことは、評価方法であり、心理学であり、市場志向、顧客志向であり、ボトルネックをスターに変えるということでもあるわけですが・・・
会計でいえば、「次繰ひく前繰」ではなく「前繰ひく前繰」みたいなもんです。当期の次繰は翌期の前繰なのですから。駅伝でいえば、「タスキをきちんと渡してこそ記録になる」のだからということになります。
■事務部門では
事務部門でも使えます。
出張旅費清算は、出張から帰ってきた日から計算して、経理が伝票作業を開始した時間までを営業マンの成績、評価とすればいいんです。これで事務員は喜ぶでしょう。(^^;
でも今度は、事務員が出荷データを受け取った時点から計算をして、倉庫の出荷担当者が作業を始めるまでの時間を「事務員の作業時間、評価」とすれば、いかに早く伝票を届けても出荷担当者が作業を開始してくれなければ事務員が悪いということになります。
■まとめ
子供が悪いのは親が悪いとか、社員が悪いのは社長が悪いという話はよく聞きますが、それと同じことを管理システムに持ち込もうというわけです。
次工程がスムースに仕事を開始できない理由は、前工程にある。
工程間の依存事象(従属性)を考えると、うまくいかない理由は前にあるというわけです。
その流れをさかのぼっていけば、じつは先頭の投入工程に問題あり、ということになっていきます。DBR理論も同様でした。根本原因の特定ということも同じことです。
ともかく、私達が当たり前だと思っている「作業時間の計測方法」がじつは部分最適化の温床になっているとは、じつは誰も思わないものです。