■交叉比率の変形
製造業のほうが理解しやすいと思いますが、全工程の仕掛品量と生産リードタイムには相関関係があることは、すでに分かりました。
■工場全体の仕掛品量が増えると、生産リードタイムが長くなります。
逆に仕掛品量が減少すれば、スイスイ作ることが可能=生産リードタイムは短くなります。
■もう少し思考を深めていくと、仕掛品在庫とは時間の別名であるということが分かります。よく「何日分の仕掛在庫がある」と言い方をするからです。
毎日10個生産する工程に20個の仕掛品在庫があれば、後から来た物件がその工程を通過するためには今日+2日+加工日=4日後ということになります。
■ここで発見が出てきます。
交叉比率=MQ÷在庫 なのですが、在庫=時間の別名となれば、
交叉比率=MQ÷時間 と同等であるといえます。
つまり、MQ/H であると言っても構わないということです。
■在庫には3種類ある
在庫には、1、原材料在庫 2、仕掛品在庫 3、製品在庫 の3種類があります。
より広くみれば、自社の製品在庫だけでなく、顧客の倉庫にある在庫も捉えてみる必要もあるかもしれません。Vダウンを迫った顧客の倉庫には大量の部品在庫があることはしばしばあるからです。
一方、原材料在庫も仕入先には大量の在庫がある場合があります。
これを総合すれば、在庫を時間に変換すると
原材料調達時間+自社原材料時間+仕掛品時間+製品時間+顧客在庫時間
以上の総合計が最終消費者の手に渡るまでの時間となります。
さらにそれぞれについて移動や準備、流通時間が加算されるはずです。
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と、詳しい話はともかく。
交叉比率を加工した場合には、
交叉比率=ΣMnQn÷ΣZmQm となります。
■完全受注産業の場合
製品在庫も持たず全数出荷する場合は、
交叉比率=MQ÷仕掛品総在庫 が良くなれば回転率=速度が上昇します。
これを先の理論で変換すれば、
交叉比率=MQ÷総仕掛品加工時間 が良くなれば速度=生産リードタイムは短縮します。物件がより早い速度で工場内を通過していきます。
■受注産業+製品在庫を持つ場合は、
交叉比率=MQ÷(仕掛品総在庫+製品在庫)となります。
変換後は、
交叉比率=MQ÷(総仕掛品加工時間+製品消化時間)が新しい交叉比率となります。
■予測生産などの場合には、
交叉比率=MQ÷(原材料消化時間+総仕掛品加工時間+製品消化日数)が新しい交叉比率となるでしょう。
これらは、すべて「在庫を時間に変換して考える」という言葉がキーワードとなります。
自分の会社が、どういうパターンであるかで交叉比率の分母は変わってくるということが重要です。
交叉比率の分子はいつも「MQ」ですが、単品ではないので、それはΣMnQn となる製品MIXが正体です。
一方、在庫は全て出荷される場合はMQと対応するので「n」でいいかもしれませんが、余分に作っておいたり緊急用に備蓄する製造Qもある場合には、ΣZmQm という具合に「m」となります。
ですから、交叉比率=ΣMnQn÷ΣZmQm
となるわけです。
■交叉比率を良くしたいのであれば
まずMQアップ、在庫ダウン です。
だからTOCでは全工程の仕掛品量を一定に保つことで最大利益を工場から搾り出すことに成功しました。逆に仕掛品が増大すれば赤字になり生産リードタイムが無限に長くなる現象を体験することができました。
■ここからがポイント
MQを増やすためには利益率の高い製品投入をすれば良いのですが、現状ではそうもいきません。そこでMQアップで投入数(Q)を増やせば仕掛品は増大して生産速度は低下します。
一方、仕掛品量が減ることで交叉比率が良くなるのですが、仕掛品が少ないということは受注数が減少しているともいえます。
これをグラフでみるとすぐ分かるのですが。
横軸に仕掛品量、縦軸に生産リードタイムをとって、プロットすると、仕掛品がある程度増加しても生産リードタイムは増えません。
しかし、仕掛品がある量を超えた途端に生産リードタイムは急増するカーブを描くはずです。
★となると、製造業のゴールデンゾーンは、仕掛量を増やしても生産リードタイムが増加しない「ある範囲内での増減」ということが分かります。
このゴールデンゾーンの中で工場運営がなされていれば、投入不足にもならず生産リードタイムも異常な増加をきたさない「夢のMQ/H」が実現される場所ということになるはずです。
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以上が、
在庫とは時間の別名である という言葉と、
在庫と速度は比例関係にある という言葉。
そして、交叉比率の変形の意味です。
■値引き
さらに交叉比率で考えたいと思います。
新しい交叉比率は、
交叉比率=ΣMnQn÷総在庫消化時間 となりました。
ここでMQが減る要素として大きいのは Mダウンつまり値引き要求だと思います。もちろんQダウンもあるでしょう。
交叉比率を一定に保つためには、MQが下がるのだから総時間を減少させれば良いようですが、現在満杯なのにそれを減少させることも難しいと思います。
となれば、顧客から頂くのは「時間=納期」です。
※分子が減少するならば、分母も減少させれば交叉比率は悪化しません。
■大幅な値引き要求に対して、こちらが要求すべきは十分な納期(時間)です。
そして工場全体の負荷量を考慮しながら、「空いている時間に投入」せざるを得ません。
つまり自社の都合に相手が合わせていただくことです。
残業や投資などによるFアップを避けてMQを上げるには、時間を頂く。
これが交叉比率を低下させない方法ということになります。
※だからこそ生産リードタイムを減少できる体制を構築しなけれなならないともいえます。あまりにも長い納期に顧客は納得しないからです。
■Qダウンを防ぐには
他社よりも短時間で、少量でも受注できる会社版、体制を築くことです。
だから、TOC導入なのです。
短時間生産体制はマーケティングに通じます。
より遠距離の顧客からも受注できるようになります。
マーケットの拡大です。
それらの強みを広く知らしめる広告宣伝活動も必要になります。
そして納期や品質に対する信頼性確保も重要です。
しかし、それらも「時間の使途」がキーワードになります。